どうでも良い自転車豆知識 〜自転車は道交法上の整備不良車両になりうるか?〜

今回はかなりどうでも良い自転車と道路交通法に関連した小話です。

自動車運転免許を持っている人ならば耳にしたことがあるはずの「整備不良車両」という単語。自転車も道路交通法上の車両だから当然自転車も道路交通法上の整備不良車両になるんじゃないの?と思っている人も多いのではないでしょうか。
ところが実はこれは誤解なんです。三輪又は側車付でない自転車の場合はどんなに(一般的な意味で)整備不良な自転車であっても道路交通法上の整備不良車両には該当しません*1 *2

整備不良車両とは?

まず、道路交通法上の整備不良車両とは何でしょうか。道路交通法上の定義を確認しておきましょう。
道路交通法第62条には以下の条文があります。

車両等の使用者その他車両等の装置の整備について責任を有する者又は運転者は、その装置が道路運送車両法第三章 若しくはこれに基づく命令の規定又は軌道法第十四条 若しくはこれに基づく命令の規定に定めるところに適合しないため交通の危険を生じさせ、又は他人に迷惑を及ぼすおそれがある車両等(次条第一項において「整備不良車両」という。)を運転させ、又は運転してはならない。

道路交通法第62条(抜粋)

これによれば道路交通法上の整備不良車両とは、(道路運送車両法第3章 or 道路運送車両の保安基準)or(軌道法第14条 or 軌道法施行規則)の規定に適合しないため、(交通の危険を生じさせる or 他人に迷惑を及ぼす)おそれがある車両等*3のことであるということになります。

自転車に関する道路運送車両法上の規定は?

次に上記の条文で触れられている規定について見ていきましょう。

軌道法という法律は路面電車に関する法律ですから、自転車に関係しそうなのは道路運送車両法とその関連法令の方ですね。

そこで、まず道路運送車両法第1条を見てみると道路運送車両法は「道路運送車両」というものについての規則を定めた法律だということがわかります。

そして「道路運送車両」とは何かを第2条で以下のように定義しています。

第二条  この法律で「道路運送車両」とは、自動車、原動機付自転車及び軽車両をいう。
2  この法律で「自動車」とは、原動機により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的として製作した用具であつて、次項に規定する原動機付自転車以外のものをいう。
3  この法律で「原動機付自転車」とは、国土交通省令で定める総排気量又は定格出力を有する原動機により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的として製作した用具をいう。
4  この法律で「軽車両」とは、人力若しくは畜力により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的として製作した用具であつて、政令で定めるものをいう。

道路運送車両法第2条(抜粋)

この定義だけを読むと自転車は第4項の軽車両に該当しそうですが、政令で定めるものとあるのでそちらも見てみましょう。該当する政令である道路運送車両法施行令には以下のような条文があります。

道路運送車両法第二条第四項の軽車両は、馬車、牛車、馬そり、荷車、人力車、三輪自転車(側車付の二輪自転車を含む。)及びリヤカーをいう。

道路運送車両法施行令第1条(抜粋)

ということで、道路運送車両法における軽車両とは馬車、牛車、馬そり、荷車、人力車、三輪自転車(側車付の二輪自転車を含む。)及びリヤカーだと分かります。
あれっ、自転車は?という感じですね。しかもわざわざ三輪自転車と書いていますから、自転車の存在を認識した上で自転車のうち三輪自転車(側車付の二輪自転車を含む。)のみを軽車両としているのが分かります。

つまり、道路運送車両法においては三輪自転車(側車付の二輪自転車を含む)以外の自転車は軽車両に該当しないので、道路運送車両にも該当せず、三輪自転車(側車付の二輪自転車を含む)以外の自転車は道路運送車両法の対象外だということになります。

対象外ですからもちろん三輪自転車(側車付の二輪自転車を含む。)以外の自転車に対する規定は道路運送車両法にはありません

規定がない自転車にとっての道交法62条の規定の意味は?

ここまでで見てきたように、先程の道路交通法第62条のいうところの各種法令が定める規定というものが、ほとんどの自転車に関してはどういう訳か存在していません。

規定が存在しない以上は規定に適合しないという状況はあり得ないので、ほとんどの自転車は道路交通法のいう整備不良車両には当たらないということになります。つまり、ほとんどの自転車にとって道路交通法第62条は意味のない規定です。当然、道路交通法第62条を根拠に自転車の取り締まりが行われることもないはずです。

その代わりに道路交通法では第62条とは別の条文で他の車両とは別立てで自転車についての規定を設けています*4。実際の自転車の取り締まりはこちらの条文を根拠に行われているはずです。

まとめ

  • 道路交通法において整備不良車両とは道路運送車両法とその関連法令などの規定に適合しないため、交通の危険を生じさせたり他人に迷惑を及ぼしたりするおそれがある車両等のことをいう。
  • ほとんどの自転車は道路運送車両法上の軽車両に当たらない。
  • したがって、道路運送車両法にはほとんどの自転車に関する規定が存在しない。
  • 規定がないのでほとんどの自転車は道路交通法上の整備不良車両には当たらない。

それにしても、何故三輪自転車(側車付の二輪自転車を含む)だけ他の自転車と扱いが違うんでしょうか。不思議で仕方ないです。その辺の経緯を知りたいですね。もし、ご存じの方いらっしゃいましたら情報お待ちしております。

以上本当にどうでも良い些末な話題を長々と書いてしまいましたが、これをきっかけに自転車関連の法令に関心を持ってもらえたら幸いです。

*1:道路交通法やその他の法規については記事執筆時点のものに基づいて記載しています。実際の走行時はその時点での法規に従ってください。

*2:道路交通法上の」という但し書きがあるのがポイントです。ここで言っているのは道路交通法の整備不良車両の条文に該当しないというだけの話で、もちろん危険ですし道路交通法の他の条文には違反することになるので、(一般的な意味で)整備不良な自転車に乗るのはやめましょう。

*3:車両又は路面電車のことを言います(道路交通法第2条)。当然自転車も車両の一種ですから含まれます。

*4:たとえば道路交通法第63条の9第1項の制動装置についての規定