Atom Z540をオーバークロックしてみた
前回に引き続き、Atom Z540を使いこなすシリーズの第2回目です。
今回はAtom Z540の処理能力不足を解消するために、SetFSBによるオーバークロックに挑戦してみました。なお、オーバークロックはPCに通常使用では想定されていない負荷を掛けますし、データが失われる危険もありますので、ある程度知識に自信のある方以外にはお勧めしません。十分な知識をお持ちの方のみ自己責任でお願いします。
SetFSB*1は手軽にベースクロックの上げ下げをすることができるツールです。ベースクロックが上がればFSBもCPUのクロックもメモリのクロックも上がるのでシステム全体の処理能力を向上させられます。もちろんそれと同時に消費電力と発熱も増えます。SetFSBにはフリー版とシェアウェア版がありますが、VAIO type Pのクロックジェネレーターはフリー版でも対応しているのでフリー版で問題ありません。
以下、実際の作業を順番に説明していきます。
CPUのオーバークロック耐性を調べる
まずCPUのオーバークロック耐性を見極めるため、SetFSBでベースクロックを変化させながら、エラーが出ない最大のクロックを探します。ベースクロックを変化させるのは以下の手順で行います。
この作業のコツは一気にクロックを変化させずに2〜3 MHzずつ変化させることです。一気にクロックを変化させるとすぐにフリーズしてしまいます。
SetFSBで無事クロックを変更できたら、負荷を掛けてエラーが出ないことを確かめていきます。エラーが出たら少しずつクロックを下げていきエラーが出なくなったところがクロックを上げられる上限値となります。
VAIO type PのAtom Zシリーズの場合はデフォルトでは133 MHzですが、ネット上の成功例を見る限り150〜160 MHzまで上げられることが多いようです。まずはこのあたりのクロックからの試すのが良いでしょう。もちろんCPUにもメモリにも個体差がありますから成功例があってもその条件で必ず成功するとは限りません。
負荷を掛けるツールは好きなものを使えば良いです。私の場合はPrime95*2を使いました。Prime95では負荷を掛けてエラーが出るとアイコンが赤くなるのですぐに分かります。このテストで12時間耐えられれば問題ないとされていますが、このPCの利用形態を考えれば実用上は3時間エラーが出なければまず大丈夫でしょう。また、負荷を掛ける際は熱によるクロックダウンが発生してしまってはテストにならないので十分な放熱が行われるようにしておきましょう。
私の場合、このような検討の結果ベースクロックの上限は152 MHz前後でした。まず160 MHzでは負荷を掛けて数分でエラー、そこから1〜2 MHz刻みでクロックを下げていくと、154 MHzまではエラーが出たが、152 MHzではエラーは出ないという結果でした。
オーバークロックの設定をする
オーバークロックの上限が分かったところで、次に実際に運用するオーバークロックの設定をします。私の場合上限が152 MHzでしたので、少し余裕を持たせて150 MHzに設定することにしました。
一時的にオーバークロックする場合
負荷の掛かる作業のときだけオーバークロックしたい場合にはデスクトップやクイック起動にオーバークロック用のショートカット(と元に戻すショートカット)を作成しておき、必要なときにそれを手動でクリックするのが良いでしょう。リンク先はsetfsb.eveに引数を付けた状態で登録しておきます。引数の説明は以下の通りです(setfsb.txtからの引用です)。
-w : Wait [00-99 sec] default=10sec -s : Set FSB [000-999 MHz] -i : Increment(targetFSB > currentFSB) or Decrement(targetFSB < currentFSB) [00-99 MHz] default=max -u : 0(default)=normal , 1=ultra -b : 0(default)=normal , 1=background -p : PCI-E [000-999 MHz] default=none FSB overclock[set PCI-E then increase FSB], FSB underclock[decrease FSB then set PCI-E] -q : Quiet [no GUI to be displayed at all] -cg[string] : Clock Generator default=none Maximum 15 characters
私の場合、オーバークロック用のショートカットの引数は-w05 -s150 -i05 -cg[ICS9UMS9610BL]
としています。これはクロックジェネレーターをICS9UMS9610BLにセットし、起動後5秒待ってから1秒間に5 MHzずつ変化させて150 MHzまで上げるという意味です。
常時オーバークロックする場合
常時オーバークロックの場合はログオン時にSetFSBが起動するようにしておきます。スタートアップに上記の引数を付けたオーバークロック用のショートカットを入れておくだけで良いです。
更にスリープや休止で運用している場合は追加の作業が必要です。スリープや休止からの復帰時にはクロックが元に戻ってしまうので、タスクスケジューラーでスリープから復帰するイベントをトリガーにして最上位の権限でSetFSBを先程の引数付きで起動するタスクを作成しておきます。これによりスリープや休止からの復帰時に自動でオーバークロックした状態に戻すことができます。イベントビューアーのWindows ログ>システムから「スリープ状態から再開しました」というイベントを選択し、右クリックから「このイベントにタスクを設定」とすることでこのようなタスクを作成することができます。
実際の使用感は?
ベースクロックが150 MHzとなった場合、EIST作動時のAtom Z540のクロックと電圧は以下の表のようになります。元々が133 MHzですから、150 MHzだと12.5%のクロック上昇ということになります。
倍率 | 動作クロック | 電圧 |
---|---|---|
x 6 | 900 MHz | 0.8500 V |
x 8 | 1200 MHz | 0.9000 V |
x 10 | 1500 MHz | 0.9500 V |
x 12 | 1800 MHz | 1.0000 V |
x 14 | 2100 MHz | 1.0375 V |
さて、オーバークロック時の実際の使用感ですが特に高負荷時にオーバークロックの効果を実感することができました。文章を書いたりといった低負荷の作業では新規ウインドウの描画がわずかに早くなった程度でほとんど違いは感じませんでしたが、Youtubeの動画を見ながらあるいはPrime95で負荷を掛けながらといった高負荷状態での作業時にははっきりと違いを感じました。
しかし、オーバークロックのメリットよりもデメリットの方が大きいとも感じました。高負荷が持続する状況ではオーバークロックによる発熱増に本体の廃熱が対応しきれず熱による強制クロックダウンが起こりやすくなるという問題点があるからです。したがって、バッテリー容量に余裕が無くファンレスのVAIO type PにおいてZ540のオーバークロックの利点があるのは、AC電源につなぎかつ連続的に高負荷が掛からない作業をする場合に限られると思います。
今回実際に試してみた結論としては、私の利用スタイルではVAIO type PのZ540のオーバークロックはメリットが少ない様に思えました。そのため色々と試行錯誤したものの当面はオーバークロックでの運用は見送ろうと思います。ただ、廃熱用のファンのあるVAIO Xや、VAIO type PでもZ540よりも元々発熱に余裕のあるZ520やZ530の場合なら、もう少しオーバークロックの利点があるのかもしれないとも感じました。
[2012-01-28 追記]: 文章が分かりにくかったので、文章を書き換えて見出しを付けました。内容は以前から変化ありません。
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*1:SetFSBのダウンロードはhttp://www13.plala.or.jp/setfsb/からできます。
*2:Prime95のダウンロードはhttp://www.mersenne.org/freesoft/からできます。